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翻訳業界の様々な面に関する詳しい知識が得られ、全体像を把握することができます。

医学翻訳:言語的課題とベストビジネスプラクティス

この記事では、医学の言語表現の主な機能を詳しく説明するとともに、医学分野特有のベストプラクティスとビジネスソリューション、および医学翻訳の質を高めるための主な要件といった医学分野での特性と言語的課題についてのインサイトを提供します。

Medical Translations: Challenges and Solutions
著者: Andreea Balaoiu

言語表現から診断まで

医学翻訳の分野は非常に複雑なものであり、新しい知識や発見を広める上で、文化的境界を超えて世界的に絶え間なく課題が生じています。

オーストリアで生まれ、アメリカで活躍した医療翻訳家ヘンリー・ フィッシュバッハ(1921〜2008年)は、「人体の解剖学的構造と生理機能が普遍的(人体は世界のどこであっても同じ)であるため、医学翻訳は最も普遍的かつ最も古い形の科学翻訳と言えるでしょう」と述べたことで有名です。

フィッシュバッハの言葉のように、太古から人体の研究は共通の特徴の探求と人類特有の問題に対する普遍的な解決策の発見に焦点を当てているため、医学翻訳と通訳の需要が絶えることはありません。

医学翻訳の言語表現がどのように進化してきたかについて、時代を追って見てみましょう。

医学的言語表現の共通語として英語が採用されるまでの長い間、教育および実践の両方の面において、ライフサイエンスではラテン語とギリシャ語の用語が支配的存在でした。

レオン・マクモローの著書「医学文書におけるグレコローマン型の破壊:20世紀医学の多くの言語」(1998年)によれば、ラテン語とギリシャ語は2千年以上にわたって文明の文化的境界を超えて高度な医学的知識を普及・伝達し、科学的言語表現における慣習はそれによって形成されました。

中世以降、医学的コミュニケーションにおいて、ラテン語に中世英語が加わり、この共存は19世紀の初めまで続きました。このようにして医学に関する教育と文書におけるラテン語の支配は終わりを迎えました。

この後の近代では、過去2世紀の間に人々を巻き込んだ社会的・政治的混乱によって、医学の知識と言語表現は等しく大きな影響を受け、医学用語は激しく変化し、古代から受け継がれてきたことは、これまでとはひどく異なる様々な新しいものに包まれることとなりました。

現代の医学翻訳の主な特徴

現代の医学的文書には、医学の教科書、簡潔な医療記録、処方箋、製品概要、使用説明書、臨床試験プロトコル、高度に専門的な医学雑誌、薬の広告、患者の問診票や同意書など、これまでよりも多岐にわたる種類のものが存在しています。

科学的および技術的な専門用語が多く含まれる医学的文書を翻訳する際は、「なんじ原文の理解をすべし(thou shalt understand thy source text)」が基本かつ必須の姿勢となります。

この経験則に加えて、すべての文書において、その内容を強く特徴づけるものはスタイル、語調、真実性、正確さ、一貫性といったものです。

各種医学翻訳文書の語調は、対象とする文化・地域での受け手に対応して変化するものであり、翻訳を質の高いものとするためには、この特定の受け手の多岐にわたるニーズに効果的に応えなければなりません。

様々な医学関連分野における専門用語は、通常、特定コミュニティを対象としており、それを使うことは、その人物が医学的知識と専門技能の両方を専門家レベルで備えていることを意味します。

専門家は一般的にそれを「科学用語」と呼び、感情の表出、偏った解釈および主観的な含意のないこと、そして最も重要なこととして、推測や予想の余地がないことを重視しています。

これらのルールに基づき、医学翻訳で主に考慮されることは、採用された医学用語の使用者、使用分野、特定の使用法の間に、不可分または相互依存な関係を確立することです。

例えば、医者と患者、医療機器や製薬会社とエンドユーザーなど、専門家と一般読者の間で医学的コミュニケーションが行われる場合、翻訳は中立的な語調のものにしなければなりません。誤解を招く言葉遣いや用語の使用は避け、エンドユーザーや一般読者の専門用語への理解不足を埋めるためのインサイトを提供する必要もあります。

一方、専門性の高い科学翻訳の場合は、専門的表現は必須であり、クライアントはターゲット読者である専門家が望む業界用語や科学的専門用語を必ず使用することを翻訳者に厳しく要求します。

現代の医学翻訳の課題

医学翻訳分野では、翻訳するべきか、するべきでないか、それが問題です。

医学翻訳の成功または失敗は、文脈に応じて用語が正確かつ的確に使用されているか、ならびに主題分野に対する翻訳者の知識や理解のレベル、および何を翻訳すべきか否かについての認識にかかっています。

 医学翻訳の分野における陥りやすい誤りと課題は、医学翻訳の成功を左右する文体および語彙上の主な問題である同等性、可読性、エポニム、頭字語、接辞、二重語、多義性という基準に基づいて分類できます。

混乱を生じさせるエポニムや、対象とする文化の同等性など、医学翻訳に特有の問題をいくつか考えてみましょう。

医学におけるエポニムとは、医学分野での特定の用語で、病気や機能障害に対して人(場所や物のこともあります)にちなんで名前が付けられたものです。

ヴィンセント・モンタルトとマリア・ゴンザレス・デイビーズによる「医学翻訳ステップ・バイ・ステップ - 起草による学習」(ラウトレッジ、2014年)などの学術的な文献によると、バセドウ病、フラヤーニ病、グレーブス病という病名のすべてが「甲状腺機能亢進症」を意味する用語であり、また、バーロー病とバーロー症候群は、単純な「ビタミンC欠乏症候群」の別名だということです。

ライフサイエンスの分野で使用されている専門用語の多様さを考えると、エポニムか同じ意味の他の用語を選択するかの問題が生じ、これには対象とする文化においてはどの選択肢の使用がより一般的か、より普及しているかにも基づいて決めることに特に注意を払う必要があります。

さらに、複雑な語彙や専門性の問題の次に、医学翻訳の世界的な課題として、正確性および市場特有のルールの順守の問題というものがあります。これは、原文に忠実に従い、翻訳に制限を加える閉鎖的なアプローチを超えており、新しい、より厳格な要件や規制の対象ともなるものです。それに加えて、誤訳を避けるために、用語の同等性に注意を払うことも重要です。

特定の用語の英語からスペイン語への翻訳の例
原文 誤訳の例 専門家による翻訳
Fiberoptic bronchoscopy(ファイバー気管支鏡検査法) Broncoscopia fibroóptica/broncoscopia por fibra óptica fibrobroncoscopia

医学分野と他の分野の翻訳の違いは何でしょうか?

医学と他の業界での翻訳に対する期待における違いを最も端的に表すキーワードを挙げるならば、間違いなく「標準」と「質」になります。

医学翻訳の提供企業と、そこが擁する翻訳者に対して求められる主な要件は、実践的な経験、完璧な理論構築力、そしてもちろん分野特有の用語に関する知識です。

医学翻訳サービスを専門とするLSP(言語サービス提供会社)の顧客は、質を念頭に置いた高度に標準化された翻訳プロセスによって最高品質の翻訳が実現されることを当然のように期待します。

さらに、医学翻訳の潜在顧客は、LSPが継続的に行う品質確認、認定された枠組および規制の順守を非常に高く評価し、その実施により悪い評価が広まったり、否定的な反発を生む可能性が軽減されることを期待します。

MDD(医療機器指令)などの地方自治体の規格、および特定の市場の規制を十分に理解し、認識していることが最も重要です。

また、国際標準化機構(ISO)によって規制されている標準化された医学翻訳プロセスをとることは、LSPに要求される質を実現するために最も重要です。

したがって、医療医学的文書の翻訳には、2重のアプローチが不可欠です。つまり、翻訳は、用語と文体上のルールを厳格に守り、対象となる市場の要求に応える必要があるのです。

上記を踏まえて、世界中の利害関係者が医学翻訳分野に対して求め、他の分野の翻訳とは一線を画している主な利点についても見てみましょう。

  • 「メディカルツーリズム」がこれまで以上に重要な役割を果たしている昨今、人間主導の専門的な医学翻訳は、存在するあらゆるヘルスケアおよび医療産業ビジネスにおいて不可欠なものであり、その必要性が途切れることはありません。

  • 医療機関と顧客またはLSPとの間の、共生的で相互に有益な関係に基づく高品質の医学翻訳は、医療業界にとって有益な成果をもたらし、患者と消費者を確実に満足させます。

  • 専門的研究および医薬品や医療機器に関する研究の詳細な説明などの医学的内容のものを翻訳することは、医療従事者とその患者に同様に利益をもたらします。関係各者の継続的な情報把握、ならびに複雑な医療手続や文書に関する情報を求めている外国人患者や投資家に新たなアクセス経路が確保されるのです。

  • 特に製薬業界では、国際市場において先進国からの医薬品の流入が急増しているため、高品質の専門的な医学翻訳がこれまで以上に価値のあるものとなっています。

  • ヘルスケアおよび医薬品関連研究の翻訳には、一般の読者が日常的に接することのない高度に専門的な医療および技術用語が含まれるため、原文と訳文の両方の言語において複雑な医学用語に堪能な医学的文書専門の翻訳者に対する需要が絶えることはありません。

次に、医学翻訳プロセスを用いる翻訳者への主な要件に関してですが、顧客の期待の中で高いランクに入り、経験豊富な医学翻訳者とそれ以外とを区別するのは、以下のようなものです。

  • 翻訳対象の特定の医学的主題に関する広範な知識

  • 医療分野でのこれまでの経験

  • 言語メッセージの正確な意味を理解して翻訳するために必要な原文と訳文の言語双方における母語レベルの知識

  • 対象の読者に、その言語特有のもので、その言語に同調した思考プロセスを引き起こす訳文が書ける

  • 主題に関して用語の一貫性を確保できる

  • 編集的判断が下せて、文書に対して自由過ぎる解釈を行わず、技術的な部分を反映させた正しいメッセージを伝えることができる

上記のすべての点を考慮すると、医学翻訳の分野によって、LSP、翻訳会社、翻訳者にはその限界を試される機会と課題がますます与えられ、関係者のすべての要件をクリアする堅実で質を重視した医学翻訳は、人類の幸福の維持と発展に貢献します。

医学翻訳を専門とするLSPを選ぶべき理由

現在、世界的に研究および投資機会の面で、製薬、バイオテクノロジー、化学、医療機器の業界が勢いを増している状況において、LSPおよび翻訳会社による可能な限り多様な医学的内容に取り組みが、これまで以上に急務となっています 。

したがって、この特定の翻訳分野で競争的であるかどうかは、見逃すことのできない点です。特に、責任の重大な患者の機密データや、世界に大きな影響を与えるような非常に専門的な医学研究の翻訳を委託するには適正な会社を選択する必要があります。

有能で多くの医療分野に対応可能なLSPを一般的な翻訳会社から差別化し、別格とする重要な要素として以下のものが挙げられます。

  • 医学用語と言語表現に関する優れた知識があることによって、多様な内容および注目される特定分野の内容のどちらにも対応可能である

  • 市場特有の規制および規格を順守する

  • 医学的内容を効率的にローカライズできる

  • 文化的な境界や感受性を超えて効果的にコミュニケーションがとれる

多様な医学的内容

多様な内容には、医学関係のウェブサイトやマーケティングの素材、医学関連表示の内容、患者の問診票、いろいろな製品に対する臨床試験文書や医学研究論文、調剤ラベルといったものを、最も一般的で、需要のあるものとして挙げることができます。

病院のウェブサイトのコンテンツは、マーケティングの主要なツールとなりつつあり、できるだけ多くの潜在顧客に到達し、確保するために、医学的内容を様々な言語にする必要性は高まっています。

大規模な医療施設や医学関係の複合企業には、世界からの患者に対して指定の治療領域への誘導およびアクセスをより容易なものとするために、表示を様々な言語に翻訳することが強く求められています。

また、医療施設には、いろいろな言語を話す患者が様々な医療サービスを求めて常に訪れるため、患者の問診票を翻訳することがこれまで以上に求められています。

さらに、臨床試験および医学的研究の文書または調剤ラベルの医学翻訳は、それによって医療サービスや製品の開発者と世界中のユーザーとの間のコミュニケーションギャップが確実にカバーされるために非常に需要があります。

地域市場における規制の順守

医療関連市場の地域的な基準への準拠、国内および国際的な医学翻訳に対する規制の順守に関しては、そこを通らなければならない曲がりくねった迷路のような翻訳の過程を、提供者、翻訳者、顧客で共に通過するようなものです。

この点に関して主に参考になるものにはMDD(医療機器指令)があります。翻訳対象の医学的内容は、ラベル、安全上の注意、使用説明書に分類され、当該の国または地域によって各分類に対するアプローチは変わります。

これが意味することが分かりやすいのは、EUではエストニアやフィンランドの例です。医療関連ラベルの記載と翻訳において、専門家と一般ユーザーが明確に区別され、文書は専門家向けには英語と地域の言語の両方が、一般ユーザー向けには現地語のみで表示されているのです。

カナダでは、公用語が英語とフランス語の2つであるため、医学翻訳の翻訳者と提供者には、一般消費財には内容のバイリンガル表示が必要とする医療機器のラベルに対するガイドラインに従うことが求められます。

対照的に、アジア市場は欧米よりも閉鎖的です。日本と中国の医薬品ラベルに対する医学翻訳の規則において必要性が重視され、承認のため厚生労働省に提出されるのは、日本語または中国語の内容のみです。

過去10年間で、中国は医療機器市場拡大の重要な拠点および価値のある販路としての重要性を増し、現在、米国、ドイツ、日本と激しい競争関係にあって、医学的内容の信頼性を確保するために、公用語である北京語と他のいろいろな方言での医療関連ラベルの効率的かつ徹底的な評価を行っています。

したがって、医療関係各社は、対象とする市場の基準と要件を満たすため、内容を様々な言語のすべてにローカライズする必要があり、そのために、境界を超えて特定の要求やニーズに合わせてカスタマイズされた言語ソリューションを提供できるLSPの重要性と価値が強調されます。

医学的内容のローカリゼーション

地域および市場特有の医療規制に関する上記の知識に沿って、医学翻訳プロセスの効果的な技術管理が行われます。

この点で、原文と対象言語を適切に同等なものとし、単位の調整を行うことによって、医学翻訳の質の高さも保証されます。

特定の単位をヤード・ポンド法からメートル法に変換する場合や、原文から訳文に翻訳する上での用語の一貫性を保つでも、高品質の好ましい翻訳を生み出すためには、ローカリゼーションにおいて細部にまで最大限の注意を払う必要があります。

文化的感受性への適応

そしてもちろん、医学翻訳の分野での公的指令や規制の順守、対象言語に対応するための医学的内容の効果的ローカライズは、文化的感受性に対する認識によっても強化されなければなりません。

賢明な医学翻訳提供者または翻訳会社は、その分野を専門に特化したLSPの重要な資産である翻訳プロセスに関わる2つの文化における深い知識を持つことの証拠として、言語表現においてあらゆるシナリオに対応することができます。

まとめ

医学翻訳では、翻訳者、翻訳サービス提供者、医療サービス購入者、利害関係者が果敢に克服しなければならない課題と問題が絶え間なく生じます。それはまた、文化とアイデンティティの間の貴重な架け橋でもあり、一つの言語に結びついたメッセージを数多くの言語で伝達します。

この記事では、対象言語の読者に関連する医学用語とその実際の使用法との相互依存関係をよりよく理解するために、黎明期から現代までの医学翻訳の進化を概観し、文化特有の感受性に照らして言語的課題を考察しました。

最後に、医学翻訳における重要なビジネスプラクティスと特徴を検討し、世界中の購入者と利害関係者が求めるこの翻訳分野には、世界規模で拡大し続ける可能性があることを確認しました。

約20年にわたり、AD VERBUMは意識を高め、独自の医学翻訳用語の基礎を築くことに熱心に取り組み、拡大を続けるこの迷路のような世界の曲がりくねる道をたどりながら、広い分野にわたる質の高い医学翻訳サービスを提供してきました。

ここに記載された事実とベストプラクティスによって、この多様な医学翻訳分野についての知識が深まり、そこにおけるビジネスの可能性、医学的内容を扱うことに定評のあるLSPを利用して医学的資料を翻訳することに存在する価値の一端をご紹介できたことを願っております。

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参照:

McMorrow, Leon. (1998), Breaking the Greco-Roman Mold in Medical Writing: The Many Languages of 20th Century Medicine, J. Benjamins Publishing Company: Amsterdam.

Montalt, Vincent. González Davies, Maria. (2015). Medical Translation Step by Step – Learning by Drafting, Routledge.

Fischbach, Henry. 1998. Translation and Medicine. J. Benjamins Publishing Company: USA.

US National Library of Medicine, Bull Med Libr Assoc. 1962 Jul; 50(3): 462–472. Article – “Problems of Medical Translation” by Henry Fisbach retrieved from https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC197861/

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